オフィスオートメーションの導入に伴い、コンピュータ作業者における頚肩腕障害および視覚障害への関心が高まっている。頚肩腕障害の内、手根管症候群は手根管屈筋腱鞘炎のために正中神経が手根管内で絞扼されて起こり、産業医学、整形外科および内科の広範な領域で遭遇する重要な疾病概念である。特に、産業医学領域では手指作業に起因して手根管症候群が発生しやすいことが指摘されている。本研究の目的は、手根管症候群の早期診断技術の開発と産業医学領域での適用限界を検討し、その応用として職場における手根管症候群の発生頻度を調査することにある。今回考案した手根管症候群の早期診断方法は、我々が既に開発を終了し産業医学領域の有害因子による末梢神経障害評価に使用している神経伝導連度分布(DCV)測定法を更に改良・応用した方法である。このDCV解析は、末梢知覚神経(主に正中神経)伝導速度の測定を行ない、神経束上で経皮的に記録される2つの複合活動電位波形をコンピュータに取込み、これら複合活動電位波形から神経の単一活動電位波形および神経線維の相対割合をコンピュータにより算出する。 今年度、DCV解析の際単一神経活動電位波形の異常が視覚的に明解に捉えられるように、DCV解析プログラムを修正し終えた。また、15名の健常者から得られた末梢神経の複合活動電位波形を用いて、絞扼性末梢神経障害(手根管症候群)の数理モデルを当てはめると、数理的に作り出される障害の程度がDCV解析プログラムで算出される単一神経活動電位波形の右方移動と正比例し、一方、神経伝導速度分布は殆んど影響されなかった。以上より、理論的にはDCV解析プログラムの使用により、絞扼性末梢神経障害の診断が可能であることが示唆された。また5〜15%の絞扼性障害のある振動工具作業者までもDCVが測定された。これらの結果は、平成5年度の研究実績報告の際述べられる。
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