医療系排水中のトリクロサン濃度をエキストレルートカラムによる抽出・精製、誘導体化、ガスクロマトグラフ/質量分析計を用いたマスフラグメントグラフィーによって定量した。その結果、トリクロサン濃度は0.4-8.0μg/lと比較的低い値であった。この値を医療系排水中のクロルヘキシジン濃度(106-645μg/l)と比較すると2-3桁低い値であった。医療系排水処理施設における原水、生物処理水、最終処理水中のトリクロサン濃度は上記分析法で検出限界以下であった。この原因は手術部などで使用されたトリクロサンがその使用現場で不活化処理されていること(浜松医科大学附属病院での独自の対応)と多量の排水によって希釈された結果であると推定される。そこで、医療系排水処理施設におけるトリクロサンの挙動を解明するために質量分析法による高感度分析法を開発することとした。 活性汚泥に対するトリクロサンの阻害(毒性)については、クールブルグ検圧計を用いて測定し、5時間後の活性汚泥の酸素吸収量が正常値の50%になった時のトリクロサン添加濃度を阻害率50%濃度(IC_<50>)として評価した。その結果、トリクロサンのIC_<50>は50mg/lとなり、他の消毒薬であるクロルヘキシジンジグルコネート、塩化ベンゼトニウム、ポビドンヨード(IC_<50>は200-300μg/l)などに比ベて最も毒性が強いことが明らかになった。 トリクロサンの活性汚泥による代謝についてはベンゼン環の過酸化物(パーオキサイド)化、それに引き続くOH化、OH基のエステル化などが考えられる。しかしながら、現在までのところ、質量分析法でそれらの代謝物を固定することまでには到っていない。
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