研究概要 |
本研究の平成4年度の研究目的の一つである鹿児島湾海水中の水銀レベルの把握のために、海水中の総水銀と一部はメチル水銀濃度を測定した。海水は鹿児島大学実習船南星丸を利用し、鹿児島湾の26地点の表層水を平成4年1、4、6、7、9、11月に表層水を採水した。また、鹿児島湾沿岸住民の水銀レベルを把握する目的で、桜島町住民さらに対象としての鹿児島郡三島村硫黄島住民と鹿児島郡十島村宝島住民の毛髪、血液さらに尿を採取した。海水からの水銀抽出は、海水の水銀濃度が数pptレベルであることから、通常の抽出法では原子吸光法による測定が不可能であった。本研究では海水2Lから精製ジチゾン-ベンゼンの抽出を可能にし、総水銀の直接硝酸-過塩素酸-硫酸を加え湿式分解後、塩化第一スズによる還元気化法-無炎原子吸光法での測定と総水銀中のメチル水銀のECDガスクロマトグラフィーによる測定を可能にした。鹿児島湾海水中の総水銀濃度は0.1-8.3pptで、同時に測定した水俣百間港の6.2pptを越える地点もあり、メチル水銀濃度は0.12-0.22pptで水俣百間港の0.44pptより低値であるが、水俣湯ノ児の0.19pptとほぼ同程度か幾分高値であった。月別では1、4、6、7、9、11月の順に2.56±2.26(ppt),1.51±0.96),0.76±0.48,0.45±0.24,0.68±0.44,1.03±0.79が測定され、総水銀濃度に季節差があった。また総水銀濃度が夏季の高水温時に低濃度で、冬期の低水温時の高濃度を示したことから、活発な桜島火山活動によって海水に溶解した水銀が、蓄積する一方ではなく、夏季に大気中に放出され、平衡状態にあることが予想された。桜島町住民、硫黄島及び宝島の各住民の血清中イコサペント酸濃度を測定した。イコサペント酸濃度は魚介類摂取量の客観的指標であるので、平成5年度には毛髪の無機、有機水銀を分別定量し、魚介類摂取量を考慮した各水銀濃度差から、桜島火山活動による水銀の人への影響を調べる。
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