本研究を遂行するためには、海水中の総水銀およびメチル水銀の定量分析法を確立しなければならなかった。そこでこれまでに用いられていた方法の選択と吟味、さらに分析方法の普遍化を計る意味で、その平易化を検討した。海水試料からSn^<2+>との置換で水銀蒸気を得て定量する方法では無機水銀とメチル水銀を分別して定量することが出来ない。そこで、水銀の化学形態を変化させることなく抽出できるとする、Akagi and Nishimura(1992)のジチゾン-ベンゼン抽出法を選択した。海水中の総水銀を抽出し、定量する方法としてのAkagi and Nishimura法(以下、Akagi法と略す)はジチゾン-ベンゼンで総水銀を抽出する際の振とう操作が一定になれば、再現性も十分得られ、信頼出来る定量値が得られることが解った。振とう操作を一定にするには、大型振とう機を使い、振とう時間を3〜5分とすれば良いことが解った。Akagi法では振とう操作を人の手によって行なうので、その際に定量誤差が生じることがあり、この点を改良する必要があった。さらにジチゾン-ベンゼン抽出法では、無機水銀、メチル銀およびエチル水銀を、その化学形態を変化させることなく抽出できることが確認できた。そこで、メチル水銀の定量法としての抽出はAkagi法で十分再現性が得られたが、さらに内部標準として自然界では存在しないエチル水銀を一定量(1ng/L)海水試料に添加した後に抽出操作を行ない、Akagi法に従ってクリーンアップし、ECD-GCでメチル水銀の定性定量をエチル水銀による内部標準法で行なった。内部標準法によって、ジチゾン-ベンゼンによる水銀の抽出率と濃縮率を考慮しなくとも良く、濃縮率の変化による定量値の誤差をなくすことが出来た。したがって、海水中の総水銀(無機水銀とメチル水銀)とメチル水銀の定量には本法(Akagi法の改良法)が適応出来ることを確認した。
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