本研究では、桜島海岸と水俣袋湾海岸の海水・海岸土壌・魚介類を選び、水銀濃度を測定した。次に、鹿児島湾海水の水銀濃度の水域差および季節差を調べるために、鹿児島大学実習船南星丸を利用し、鹿児島湾の26地点の表層水を各季節5回に渡って採水し、水銀濃度を測定した。また、桜島、硫黄島、宝島の住民の血清エイコサペンタエン酸(20:5)を魚介類摂取量の指標として測定し、毛髪水銀との相関関係を調べ、魚介類へ蓄積された水銀の人への蓄積について検討した。また、海水中の総水銀およびメチル水銀の定量分析法の確立と普遍化を計る意味で、その平易化を検討した。鹿児島湾海水の総水銀濃度は0.1〜3.2ng/Lと測定され、これまでの報告と比較してかなり低かった。また、海水の総水銀濃度には、海水温度と負相関、pH値と正相関の相関関係が見られ、冬季に高く、夏季に低い季節差が存在していた。水域差も冬季に限り、鹿児島湾奥部と桜島周辺部で鹿児島湾央および湾口より高い傾向が見られた。水俣袋湾の干潮時では、表層で1.2〜5.0ppt、底層で1.8〜5.4pptで、満潮時では表層で1.2〜1.7ppt、底層で1.6〜4.2pptを示した。鹿児島湾と袋湾のムラサキイガイの総水銀濃度を比べると、鹿児島湾産では4〜14ppbで袋湾産で23〜67ppbで、その差は有意であった。桜島、硫黄島及び宝島住民の血清20:5濃度は桜島住民で最高の90mg/Lであり、毛髪総水銀でも桜島住民で最高の11.4ppmを示し、魚介類摂取量の差が毛髪総水銀の差として反映していた。海水の総水銀とメチル水銀の分別定量法として、Akagi and Nishimura(1991)法の再現性の確認と平易化を検討し、総水銀を抽出する際の振とう操作を大型振とう機を使い、振とう時間を3〜5分とすれば再現性も十分得られ、信頼出来る定量値が得られることが解った。自然界では殆ど存在しないエチル水銀を一定量添加しするECD-GC内部標準法でメチル水銀の定量分析が検討された。
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