喫煙と石綿暴露が肺癌の発生について相互作用を示すことはよく知られ、悪性中皮腫の発生に喫煙は関与しないことも知られている。しかし石綿曝露による胸膜肥厚に喫煙が及ぼす影響については、これまでの研究の結果は一致をみていない。この不一致の原因の一つは、用いる指標が判定者の主観的な判断に依拠することによる。この点を考慮して主観的な指標を避けて、石綿曝露による胸膜肥厚に喫煙が及ぼす影響について調べた。調査の対象は、某摩擦材製造会社で石綿作業の従事する男性で、1978年に石綿についての特殊健診を受けた490人のうち1990年にも健診を受診した134名である。この両年の作業者の胸部X線フィルム上の胸膜の最大幅を、二人の判定者が喫煙状態、健診年についてブランイドで測定した。胸膜厚に対する喫煙状態、健診年、年齢、石綿曝露歴、喫煙と健診年の交互作用をSAS GLM procedureで分散分析を行った。その結果、喫煙状態と健診年が有意に関係しており、胸膜厚の経時的な増加は認められたが、喫煙状態には関係せず、健診時期と喫煙状態の相互作用も有意ではなかった。すなわち、喫煙と検診年次の影響は独立であることを示していた。中皮腫同様胸膜の単純肥厚も喫煙の影響を受けないということは、石綿による呼吸器影響の機序が、石綿肺、肺癌等の肺実質病変と胸膜病変では異なっている可能性があろう。次に胸膜厚への喫煙の影響を一般的に検討する目的で、石綿に暴露していない百貨店男子従業員の胸部X線フィルムで同様の研究を行った。その結果、胸膜厚の経時的な肥厚は、喫煙者110名、非喫煙者50名、元喫煙者16名で差がなく、やはり喫煙の胸膜への影響は否定された。現在、石綿による肺病変を量的、客観的に評価するために、パソコンを用いた画像処理の手法を開発中である。
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