ミトコンドリア遺伝子の多型性に富むローループ領域の断片を合成したプライマーMt333を用いて、PCR法により増幅後、これをベクターに組み込んでクローン化し、独立したそれぞれのクローン塩基配列を決定することによる異同識別を確立した。微量でしかも腐敗、汚染された実際の法医鑑定試料に本法を応用した結果、きわめて有用な成績が得られ、以下にその成果と問題点を述べる。 1.腐敗、汚染されたバラバラ女性妊娠死体(6箇所で切断)の異同識別を行う目的で、マルチローカスDNAフィンガープリント法、シングルローカスVNTR法と本法を応用した。その結果、腐敗のためにDNAの分解が高度であったことから、前二法では異同識別の判定が不可能であったが、本法を用いることにより同一死体由来のものであることが明らかになった。 2.一方、別の腐敗、汚染された頭部で切断された男性バラバラ死体においても、本法の有用性が確認された。 3.ガーゼに付着した膣内容と精液の陣旧性混合斑の試料について、本法を応用して精子のMt333部のシークエンスの決定を試みた。まず、膣止皮細胞のMtDNAと精子由来のMtDNAとを分離する目的で、SDSにより精子由来のMtDNAをおおまかに分画した。次に、このMtDNAのクローン化を試みたが、多くのクローンは膣上皮細胞由来のMtDNAで、精子由来のMtDNAのクローンを選択することが困難であることが判明した。 今後は、目的とするMtDNAの分離とクローン化後の各クローンの効率のよい選択法について検討していくつもりである。
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