研究概要 |
高速流体クロマトグラフィー(HPLC)/ファストアトムボンバードメント(FAB)質量分析法(MS)は生化学や有機化学の領域で注目されつつあるMSの新しい手法である。本法はガスクロマトグラフィーに適さない、高極性,難揮発性,もしくは熱不安定性の薬毒物を検出同定するのにも最も有力な方法である。本研究では法医学上よく問題となる抗生物質や化学療法剤について,最近それらの多種類の標準品のHPLC-FAB MSによるマススペクトルを測定し、さらに実際に法医実務に応用できる簡易ですぐれた検出法を設定確立する事をめざした。 平成4年度には,まずHPLCの技術的改良を行った。すなわち,通常のセミミクロカラム用ポンプ2台を使用し,T字バルブと制限カラムを利用する事により,precolumn split systemを作成した。これにより5μl/分の流量を再現性よく確保でき,内径0.3〜0.5mmのキャピラリーHPLCカラムに接続する事に成功した。さらに特殊なカラムスイッチングループを作成し,500μlのサンプルでも注入可能とし,サンプルは一担濃縮カラムに吸着させ,洗浄後キャピラリーHPLCカラムに導入した。以上のシステムより,500μlの容量をもつサンプル中の目的物質すベてが,操作中に失われる事なく全量MS用FABインターフェイスに導入される事となり,かなりの高感度を得る事ができた。 以上の様な技術的問題を克服した上で,まず14種類のペニシリン系抗生物質と10種類のピリドンカルボン酸系抗菌剤のFABマススペクトルを測定し,その開裂様式の解析を行った。 さらに他の各種薬毒物に関し,血液尿中から分離抽出を行う方法をも検討した。これらはHPLC/FAB-MS分析の前処理法としても意味のあるものである。抽出法の確立はHPLC/FAB-MS自体の研究よりも比較的短時期に完了するため,既に多くの論文を専門誌に発表しつつある。
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