研究概要 |
ファストアトムボンバードメント(FAB)質量分析法(MS)は生化学や有機化学の領域で注目され、その装置も広くいきわたりつつある。本法は検体に高速中性子ビームを照射し、イオン化する新しい方法であり、イオン化に際し加熱しないため、熱分解しやすい物質を検出するのに最適である。さらに、高分子化合物やグルクロン酸抱合体のような水溶性かつ難揮発性化合物も容易にイオン化して、検出同定することができる。最近高速液体クロマトグラフィー(HPLC)とFAB-MSとの結合が実現され、生体試料中の微量物質でも、HPLC-FAB-MSで確実に検出同定する事が可能になってきた。しかし、HPLC-FAB-MSの法医学的応用は最近スタートしたばかりであり、薬毒物の検出同定に威力を発揮するものと期待される。 当初の計画ではペニシリン系、セフェム系の抗生物質、ピリドンカルボン剤系の抗菌剤、さらにはフェノチアジン系やブチロフェノン系についてもHPLC-FAB-MSによる分析を行おうと計画していたが、最初HPLCの技術改良に手間取り、それにかなりの時間と労力を費やさざるを得なかった。そのため、今回の研究では結局ピリドンカルボン酸系抗菌剤10種類に限って研究を展開する事となった。 まず、最初に10種類のピリドンカルボン酸についてFABによるマススペクトルを測定し、各ピークの生成メカニズムの解析を行った。すべての薬剤でMH^+の擬分子イオンが基準ピークとして出現し、その他MH+H,MH+32,MH+62,MH+G,MH-H_2O,MH-CO_2,等のピークが共通に認められた。 その結果をふまえて、10種類のピリドンカルボン酸類につき、それらの標準品をヒトの血液や尿に添加し、抽出法の検討を行ったところ52.3〜109%と良好な回収率を得た。 FAB-MSによるマスクロマトグラムを測定し、直線性や感度チェックで行ったところ、多少定量性には問題に残るものの、検出限界は0.1〜0.2ug/ml血清(注入量10〜20ng)であった。 以上の結果をJapanese Journal of Forensic Toxicologyに発表した。 その他上記HPLC-FAB-MSに関連した薬毒物のMS分析法や、固相抽出法の実験結果も各専門雑誌に発表した。
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