昭和53年以来の人体実験例ならびに動物実験の成績から、普通の脳波形によって脳死の判定が出来得るとの強い印象が持たれるが、それを一層確たるものとするために、更に一連の実験をなすことを志している。脳死判定に当たっては標準脳波の消長の他に脳幹部脳波の消長をも重視すべきである。そこで、鼻腔誘導法によって標準脳波よりも一層脳幹部に近い脳底部からの脳波の誘導を試み、且つ、齋藤・橋本らの脳波自動解析システムを用いてその解析を行った。脳波の採取は、仰臥位の健常人な被検者から、国際10/20電極配置法により頭頂・側頭・後頭の他に鼻腔誘導を加えた部位から、耳垂を不関電極にとって単極誘導で行った。鼻腔誘導の電極は銀塩化銀電極針を使用した。まず、標準脳波が肉眼的にほぼ平坦化し、聴性脳幹反応も消失していた10症例(17歳〜66歳)について、それらの脳波を検討した。このうち、鼻腔誘導脳波は、6症例で標準脳波と同様に、ほぼ平坦化していたが、他の4症例では、10〜20muVの徐波がみとめられた。次に、脳波自動解析システムをもちいて磁気記録した脳波を解析したところ、各周波数領域で、標準脳波の等価電位は、全症例で健常人よりも低値を示したに対して、鼻腔誘導脳波では、何れかの周波数領域で低電位ながらも健常人の等価電位分布の範囲内に留まっていた。症例数が少ないので確たることは云えないにしても、これらの成績からみると、脳死の判定に当たって、通常実施されている脳波検査に加え、簡便な鼻腔誘導法、ならびに、脳波自動解析システムを使用して、標準脳波及び鼻腔誘導脳波の解析を行うことも考慮されるべきである。おわりに、鼻腔誘導法が多方面に利用されることを考え、タンシピンを用いてコードと電極針を分離・改良したところ、今までの電極針と同成績を得た。衛生面において注意を払う必要が生じたため、使用内訳を変更してオートクレイブを購入した。
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