脳死の判定に当っては標準脳波の消長の他に脳幹部の脳波の消長をも重視するべきである。そこで、鼻腔誘導法によって標準脳波よりも一層脳幹部に近い脳底部からの脳波の誘導を試み、脳波自動解析システムを用いて解析を行った。脳波の採取は、仰臥位の被検者から、国際10/20電極配置法により頭頂・後頭・側頭の他に鼻腔誘導を加えた部位から、耳垂を不関電極にとって単極誘導で行った。 (1)鼻腔誘導法によって咽頭後上壁に刺入した銀塩化銀電極針から誘導すると明白な脳波が得られた。標準脳波との違いを知るために、脳波自動解析システムをもちいて健常人のそれぞれの脳波パターンの差異を検討した。その結果、鼻腔誘導脳波では、標準脳波に比較して、δおよびθなどの徐波成分が多く、α成分が少なかった。また、光刺激法(周波数:5Hz、光の強さ:6J)を併用して脳波各型の出現率をみると、標準脳波ではα成分の減少、θ成分の増加が認められたのに対し、鼻腔誘導脳波では、それらに著明な変化が認められなかった。この様に標準脳波と鼻腔誘導脳波との間には明瞭な差のあることが認められたが、このことからすると、脳底部付近から誘導されたこの鼻腔誘導脳波が、頭皮表面からの脳波とは別の、例えば脳幹部付近に由来する脳波であることも考えられる。 (2)標準脳波がほぼ平坦化し、聴性脳幹反応も消失して臨床的に脳死と推定された症例について、標準脳波と鼻腔誘導脳波とを脳波自動解析システムで解析・検討した。その結果、標準脳波の等価電位は、どの周波数領域においても健常人のそれより低かったのに対し、鼻腔誘導脳波では、すべての症例で、それぞれの何れかの周波数領域において、低電位ながら健常人の等価電位分布の範囲内に留まっていた。
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