TSHRに対する自己免疫応答を解析する目的で、ヒトTSHRに対する免疫応答をマウスに惹起させて、実験動物モデルの作成を試み、以下の結果を得た。 (1)ヒト甲状腺刺激ホルモンレセプター(hTSHR)遺伝子導入細胞の樹立 BALB/c由来のB細胞リンパ腫であるA20.2JおよびI-A^kを導入したH-2^k class I陽性マウス繊維芽細胞であるRT・14.5HPをrecipientととし、A20.2Jにはelectroporation法により、またRT・14.5HPにはlipofectin法を用いて、hTSHR遺伝子を細胞内へ導入した。同時に、neomycin耐性遺伝子を導入し、selection markerとしてgeneticinを用いてTSHR遺伝子導入細胞を選択した。その結果、TSHRを安定に発現するA20・TSHR遺伝子導入細胞(A20・TSHR)10株を、またRT遺伝子導入細胞(RT・TSHR)3株を樹立した。 (2)hTSHR遺伝子導入細胞株の免疫によるマウス甲状腺の変化 2つのH-2(マウスMHC)ハプロタイプと4つの免疫グロブリン重鎖アロタイプ(IgH)の組み合わせからなる4種類のマウスに、H-2ハプロタイプを同じくするTSHR遺伝子導入細胞を免疫した。合計15匹のマウス中、2匹において明らかな甲状腺への単核球の浸潤が誘導された。 (3)hTSHRに対する免疫応答 また、15匹中3匹に遺伝子導入されたTSHRに特異的なT細胞芽球化反応が検出され、2種以上MHCがTSHRをT細胞に提示しうることが明らかとなった。また15匹中1匹の血清中に高値の抗TSHR抗体が検出されたが、マウス数が少なくIgHアロタイプとの関連は明らかにはし得なかった。 以上我々は、TSHR遺伝子を導入してTSHRを細胞表面に発現された細胞株を同系マウスに免疫するという新しい方法を用いて、TSHRに対する免疫応答をマウスに誘導することに成功した。本法により、TSHRに対する免疫応答の解析の進展が期待される。
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