研究概要 |
腎機能としては、糸球体濾過量(GFR)とともに、腎髄質機能としての尿濃縮が極めて重要である。腎髄質で尿濃縮にもっとも重要な部位は髄質内層集合尿細管(IMCD)である。我々はエンドセリン1(ET-1)の腎での産生部位が、糸球体及びIMCDであり、高浸透圧下ではIMCDにおいて刺激されることを報告した。我々はまた、高浸透圧下では心房性ナトリウム利尿ホルモン(ANP)によるcGMP産生がIMCDや糸球体では約半分に抑制されることを報告した。尿の濃縮に最も重要なホルモンである抗利尿ホルモン(ADH)との相関関係でみると、IMCDにおいてはET-1,ANPともにADHによる水、尿素透過性亢進作用を抑制する働きがある。高浸透圧下では、ET-1の作用は刺激され、ANPの作用は抑制され、ET-1とANPは正反対の作用を持つ。 そこで慢性腎不全患者の血中及び尿中のADH,ET-1及びANPを測定した。正常人と比較して、腎不全患者においては、ADHは血中では不変であるが尿中では減少していた。尿中ADHは血中ADHの作用を抑制することを我々はラットのIMCDのisolated tubule perfusion法にて報告しており、腎不全患者の尿中ADH排泄減少が尿濃縮力の低下の一因と考えられた。ET-1は腎不全患者においては、血中で増加し、尿中では不変であった。ET-1の血中濃度の上昇はADHの作用に対して、抑制的に働くことで尿中ADH排泄減少にたいしてfeedbackをかけていると考えられる。ANPでは血中および尿中ともに腎不全患者では変化がみられなかったので、腎不全においては重要ではないと考えられた。 以上のことより、慢性腎不全患者の尿濃縮力低下には尿中ADHの減少および血中ET-1の増加が重要な働きをしていることが判明した。尿濃縮力の低下がtubulo-glomerular feedbackでGFRの低下を進めることが慢性腎不全患者では考えられ、今後この面からのアプローチを検討していきたい。
|