我々は、体温ならびにその他の生理学的各諸量を一定にした条件下で、脳温度を任意に設定しうるラット用選拓的脳温度可変装置を開発した。本装置を用いれば、小動物の大脳皮質の温度を任意かつ速やかに、しかも0.1℃単位の精度で設定することができる。この脳温度可変装置をラットに応用し、"脳温度と脳循環代謝の関係"(脳表ならびに脳深部の温度と脳血流量の変化:平成4年度、脳温度が脳虚決血前後の血流・代謝に及ぼす影響:平成5年度、脳温度と脳虚血前後の海馬における神経伝達物質の変動ならびに神経細胞障害:平成6年度)につき検討中である。初年度は脳温度可変装置の試作ならびに応用を行い、脳の表面と深部とで脳温度勾配が存在し、脳局所血流量がその影響を受けることを明らかにした。続く2年次は脳虚血における脳温度と脳血流代謝に注目した。高血圧自然発症ラット(SHR)の両側総頸動脈結紮モデルを用い、60分間の脳虚血を作製し、経時的に脳血流量を測定したのち、in situの状態で脳を凍結、組織中の乳酸、ピルビン酸、アデノシン3燐酸(ATP)およびブドウ糖の各濃度を酵素法で測定した。脳虚血前の大脳皮質温度は36℃に保ち、虚血作製後の脳温度をそれぞれ36℃、30℃に一定調節する2群に分け、脳虚血後の脳血流代謝に及ぼす脳温度の影響を比較検討した。脳虚血60分後の大脳皮質血流量はいずれも前値の10%以下に低下し、30℃群では36℃群に比し乳酸値の増加、ATPの減少が抑制されており、低脳温の脳代謝保護作用が認められた。最終年度は脳虚血前後における脳温度と脳内神経伝達物質の変動をみる目的で、SHRの脳虚血モデルを作製後、海馬の温度を36℃または、30℃に設定し、invivo brain dialysis法により脳局所における各種アミノ酸あるいはモノアミン等の神経伝達物質を測定する。同時に海馬を中心とした脳組織の病理学的変化を比較し、低脳温の脳保護作用の有無について検討する。
|