研究概要 |
強皮症-多発性筋炎重複症候群患者に見いだされる抗Ku抗体の対応抗原(Ku抗原)は70kD/80kDのヘテロ蛋白二量体から構成される二重鎖DNA末端結合蛋白であるが,これまでその生物学的機能は不明であった。本年度は,Ku抗原の生物活性を追求した。 1)Ku蛋白結合DNAの分析:プロテインAセファロース粒子上に抗Ku抗体とHeLa細胞抽出物が反応して形成された免疫複合体中のDNAをフェノール抽出し、M13ベクターにサブクローニングして,その塩基配列を決定した。30個のクローン(平均鎖長200bp)を同定したところ,遺伝子データバンクに登録されたDNAとの相同性は認められなかった。しかし,これらのDNAにはオクタマー配列類似の配列(ATTTG/T C/T A/T T)が延べ25回,トランスフェリン受容体プロモーターなどに見られる塩基配列(G/A GAAGTNA C/G)が延べ10回認められた。このことは,Ku抗原がDNA末端のみならず,特定の塩基配列を認識してDNAに結合する可能性が示唆された。 2)DNA依存性プロテインキナーゼ(DNA‐PK)とKu抗原の関連:35〓Sメチオニン標識HeLa細胞を、生理的塩濃度(0.15M NaCl)で免疫沈降すると,Ku蛋白のみならず,350kDの大分子量蛋白を同時に沈降した。この蛋白はDNA‐PK(p350)に対する家兎免疫血清で認識されることから,DNA‐PKの触媒サブユニットp350自身であることが確認された。このKu蛋白とp350の結合にはDNAが必要で,0.5M NaClでは可逆的に解離した。DNA‐PK基質であるGAL4‐CTD融合蛋白のin vitroリン酸化反応は抗Ku抗体の存在によって特異的に阻害された。以上の結果は,Ku抗原がp350とともにDNA‐PKホロ酵素を形成し,Ku抗原はDNA‐PKの活性化サブユニットとして働く可能性を示唆した。
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