腸粘液は生体防御機構に極めて重要な役割を果たしているが、その機構については充分解明されていない。我々はヒト腸管の杯細胞粘液中にIgGのFc部分に対するBinding Site(FcIBS)が存在し、病原菌とそれに対するIgGの結合物にFcIBSが粘液と共に結合することが明らかにした。生体内でも同様機序が働き病原菌を捕捉している可能性が推測される。今回FcIBSの役割をさらに追及するとともにrecombinant FcIBSを作成し、その生理的意義を明らかにする。1)rFcIBSの作成:ヒト大腸粘膜上皮細胞を単離し、polv(A)RNAを精製し蔗糖密度勾配に重層しmRNAを含む各分画にまで分離した。これをアフリカツメガエルの卵母細胞で翻訳させ、FcIBS-mRNAの画分を得たものの、今回はcDNAを得る所までには至らなかった。2)病原菌の発育に対するFcIBSの影響:ヒト大腸粘膜より精製したFcIBSを含む分画をウサギ下痢原性大腸菌(RDEC-1)、ヒト病原性大腸菌(0111)、ネズミチフス菌(04)とそれぞれに対する特異抗体(IgG)およびコントロールとしての非特異抗体(IgG)と混合培養しコロニー数を数えることで病原菌の発育に対する影響を検討した。その結果ではRDEC-1ではコロニー数は細菌-特異抗体-FcIBS群<細菌-特異抗体-バッファー群<細菌-非特異抗体-FcIBS群<細菌-非特異抗体-バッファー群という傾向が見られた。0111と04でもほぼ同様の傾向が見られFcIBSはIgGと協力して病原菌の発育を抑制する可能性もしくはFcIBSを含む溶液中に制菌作用のある物質が含まれている可能性が示唆された。3)補体に体するFcIBSの影響:羊赤血球と抗羊赤血球ウサギIgGとFcIBSを混合し補体を加えると補体による溶血が阻害され補体と競合する可能性が示唆された。
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