1.抗ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)抗体をラットに投与すると、補体や白血球に非依存的に蛋白尿が起きる。DPPIVは血清、糸球体の両方に存在するため、免疫複合体(IC)の糸球体への沈着の機序として、糸球体におけるcirculating ICのトラップあるいはin situ ICの形成のどちらも起きる可能性がある。そこで抗DPPIV抗体による蛋白尿の機序を明らかにするために組織化学的方法などを用いて検討した。その結果、抗DPPIV抗体が糸球体上皮細胞(GEC)の膜上にある抗原に1接結合することによって蛋白尿が起きることが明らかになった。 2.DPPIVは接着因子としても機能すると考えられていることから、in vivoにおける抗DPPIV抗体の作用としてGECの接着阻害が推測される。この可能性を検討するため、培養GECを用いた実験を行った。その結果、抗DPPIV抗体はコラーゲンコートしたシャーレに対するGECの接着を阻害することが示され、抗DPPIV抗体投与による蛋白尿はGECの糸球体基底膜への接着の阻害による可能性が示された。これらの結果は、糸球体〓過の維持における糸球体上皮細胞の重要性を示すと考えられる。 3.微少変化群ネフローゼ及びそのモデルであるラットPAN腎症においては、糸球体血管壁の陰性荷電が減少する。PAN腎症では糸球体上皮細胞膜上の主要シアル酸含有糖蛋白質(ポドカリキシン)のシアル酸が減少することが報告されている。そこで培養GECにPANを作用させたところ、培養GECのポドカリキシンのシアル酸は、PANの添加により減少することが明らかになった。このことから、PANはin vivoにおいてもGECに直接に作用してその糖代謝などを阻害し、蛋白尿のひとつの原因となる可能性が示された。
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