研究概要 |
慢性膵炎の発生機序解明を目的として、遺伝的な因子の関連が深いとみられる家族性慢性膵炎を対象に今年度は以下の検討を進めた。 1.稀な症例とされる家族性慢性膵炎の報告の集計を行った。発病者が3例以上の17家系63例、うち2世代以上で発生した14家系56例を確認した。さらに発病者が2例の21家系を認め、家族性慢性膵炎は慢性膵炎全体の0.7-1.5%を占めると考えられた。教室の6症例を有するBig Familyの観察中に、20代の2例を、膵石灰化と膵管不整拡張で新たに確診できた。この8例は4組の親子である。このほか兄弟2症例を有する2家系を含めて12例の末梢リンパ球を保存した。 2.家族性慢性膵炎について遺伝子異常の関与を確認した報告はない。経験例のHLA-Locusの解析では、兄弟例の1組で全てのHLA-Locus(DR2,DR4)が、1家系親子4組中1組のみでC-LocusとDR-Locus(CW1,CW3,DR4,DRW9)が完全に一致した。このほかDR4が9例中6例と多い傾向であった。しかし、A,B,Cの連鎖不均衡は認めず、またクラスII抗原が関与する成績は得られなかった。われわれは慢性膵炎の病態の本質の一つとして組織防御因子系の異常を想定しているが、Reg蛋白とPSTI(Pancreatic Secretory Trypsin Inhibitor)について検討した。発症者、非発症者の末梢血リンパ球より、ゲノムDNAを抽出し、制限酵素(EcoRI,HindIII,BamHI,StuI)で消化後PSTI cDNA,Reg I βをプローブとするSouthern blot分析を行ったが、違いを認めなかった。また、RNAを抽出し、オリゴdTプライマーを用いた逆転写を行い得られたPSTIcDNAに対してPCR法でPSTIコード域を増幅した。一塩基の変異を見いだしたがアミノ酸置換を伴う領域の変化ではなかった。さらに一次構造の変異以外に遺伝子の転写調節の異常が病態に関与している可能性を検討したが明らかなものは認められなかった。
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