研究概要 |
発癌プロモーターであるタプシガルジンは肝癌細胞の増殖を抑制し,形態を著明に変化させる。タプシガルジンの存在下で培養した細胞は小型になり核クロマチンも凝集する。数日後にはDNAのフラグメンテーションがおこり,細胞はアポプトーシスにより死滅する。タプシガルジンは小胞体カルシウムATPaseの特異的阻害剤であり,タプシガルジン処理により細胞質カルシウムは急速に増加する。しかしこの増加は一過性でありまもなく細胞質カルシウムはもとのレベルにまで低下する。しかし小胞体カルシウムは減少したままであり,上皮細胞増殖因子(EGF)やバゾプレシンによるカルシウム動員作用も阻止される。タプシガルジンによる小胞体カルシウムの涸渇作用は長時間持続し,このことが核のカルシウムレベルを変化させ,クロマチンの凝集,さらにはDNAの断片化をもたらしアポプトーシスの原因となると考えられる。 タプシガルジンによるアポプトーシスの誘導は,マイトマイシンCやエトポシドとは異なり核内のp53の増加を伴わない。このことはp53に対するp53特異抗体を用いたウエスターンブロッティングとフローサイトメトリーで証明される。この事実から肝癌細胞におけるアポプトーシスの誘導には少なくとも2つの異なる経路の存在が推測された。マイトマイシンCやエトポシドによるアポプトーシスの誘導はP53による細胞周期の遅延あるいはDNAの修復の過程を含むが,タプシガルジンはこのプロセスとは別にクロマチン構造の変化をもたらすと考えられる。
|