研究概要 |
初年度はまず、この抑制活性の臨床意義、出現機序の解明から着手した。 分析に用いた検体は、劇症肝炎患者16名を含む急性肝不全(AHF)患者20名において、初回血漿交換により得られた除去血漿である。Centricon-10により分子量1万以下の濾液を得た。新鮮凍結血漿濾液を正常コントロールとした。 EGFおよびinsulinで刺激された初代培養肝細胞のDNA合成は、検体濃度20%でAHF患者血漿濾液を投与した群では、生理食塩水投与コントロールの10-120%、平均73%に低下した。正常血漿濾液にはDNA合成抑制作用を認めなかった。DNA合成抑制活性は、高齢者、および血漿交換開始時の昏睡度III度以上で高い傾向を示したが、有意ではなかった。抑制活性は賢不全合併の有無や、血清GOT、GPT値と相関しなかった。サイクロスポリンA投与やインターフェロン療法による除去血漿濾液中の抑制活性への関与は認めなかった。人工肝補助療法(血漿交換+PMMA膜血液濾過透析)施行後の経過を追えた7例のうち、除去血漿中の抑制活性の有意の低下を2例に認め、いずれの症例も数回の人工肝補助療法の後、肝機能は回復し、軽快退院した。 抑制活性はセントリコン3(MW cut off>3,000)の膜濾過により約40%阻止された。これはグルカゴン(MW3,500)の86%とビタミンB12(MW1,355)の6%のあいだの値であり、Sephadex G25の結果同様、中分子量物質であることが示唆された。抑制物質はfibroblastのDNA合成に有意の影響を示さなかった。抑制活性の分離・同定として、当該年度では、上記患者除血漿のうち2例より、それぞれ2段階の高速液体クロマトグラフィーにより分離・精製をすすめた。現在両者の結果を比較検討中である。
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