(目的)フリーラジカルがグアニン誘導体のC-8位水酸化反応を惹起し、8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OHdG)を形成することが知られている。一方、生体内には損傷をうけたDNAを修復する酵素の存在が知られており、その代表的なものに06-methylguanine DNA methyltransferase(MGMT)がある。DNAの損傷およびDNA修復酵素はいずれも発がん機構に重要な役割を有することが予想されている。そこで実験動物モデルとしてラットに慢性的に鉄負荷を行ない、フリーラジカルのDNA損傷に及ぼす影響につき、8-OHdGを指標として検討を行なった。(方法)慢性鉄負荷ラットは、3%カルボニル鉄で4週間飼育し、作成した。8-OHdGは葛西らの方法にしたがってHPLCに電気化学検出機(ECD)を接続し、高感度分析をおこなった。MGMTの遺伝子発現はMGMTcDNAをプローベとしてノーザンハイブリダイゼイションをおこなった。(成績)鉄負荷ラットにおける肝組織中の8-OHdGの高感度分析をおこなったところ、コントロールでは検出限界以下であったが、鉄負荷ラットでは有意な増加を認めることができた。また、鉄負荷ラットにおける肝臓MGMTの発現はコントロールと比較して減少する傾向にあった。(討論)今回、鉄負荷ラットでは肝組織中DNAに8-OHdGを証明することができた。これは鉄イオンの存在下でフェントン反応により、ヒドロキシラジカルの産生が増加し、DNA adductが産生されることによると思われる。さらにDNA修復酵素であるMGMTの発現は鉄負荷ラットにおいて減少する傾向にあった。ヘモクロマトーシスでは肝癌の発生が高いことが知られているが、その機序として酸素ラジカル産生増加による8-OHdGの増加に加えて、DNAアルキル化の修復能低下もかかわっている可能性が考えられた。
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