研究概要 |
本研究ではまず、特発性慢性膵炎(ICP)あるいはSjogren症候群(SjS)に合併する慢性膵炎の病因を、自己免疫学的側面から明らかにするために独自に作成したモノクローナル抗体(SP3-1,lgM)の認識する外分泌腺導管抗原(PA3)と類似した臓器分布を示しかつSjSにおいて自己抗体の存在が報告されているCarbonic Anhydraseとの関係について検討を加え、PA3とCAの間の共通抗原性の有無とその異同について考察した上で、SjSとICPにおける本抗原抗体系の意義を確認して診断への応用を検討することとした。対応抗原の検索はWestern Immunoblotting法にて、SjS、ICP、健常人(Control)の各血清とモノクロナール抗体SP3-1のCarbonic Anhydrase I(CAI)、Carbonic Anhydrase II(CAII)に対する反応を検討した。CAIではControlでの反応は認められず、SjS,ICP患者血清で本来の分子量である31KDのmajor bandに加え60KDのminor bandを認めた。またSP3-1でも31KDの部位に反応を認めSP3-1対応抗原であるPA3とCarbonic Anhydrase Iが共通抗原性を有する事が示唆された。CAIIでもControlでの反応は認められなかった。SjS,ICP患者血清及びSP3-1では30KDのmajor bandを認め、患者血清と反応することを確認し、またPA3と共通抗原性を有する可能性を認めた。 以上の結果を踏まえSjS、ICP症例を対象にCAI、CAIIを固相化してELISA法にて患者血中の抗体価を測定した。OD値の高い患者血清を用いて各標準曲線を作成した。CAIにおいてSjSは健常人と対照疾患としてのSCPに対し有意に高く、ACP+SCPに対してもP<0.05で有意差を認めた。また、ICPではACP,SCPいずれに対しても有意差を認めた。以上、mean+1SDを正常上限とした場合、SjSでは70%、ICPでは100%の陽性率であった。CAIIにおいてSjSは健常人に対してのみP<0.05で有意差を認めた。また、ICPではACP,SCPいずれに対しても有意差を認めた。以上、mean+1SDを正常上限とした場合、SjSでは80%、ICPでは60%の陽性率であった。 以上の結果より、Carbonic Anhydraseは多臓器外分泌腺導管抗原としての性状を持つばかりでなく、SP3-1によって認識されることによりPA3と同じアミノ酸配列を有すると考えられる。さらに、ICPにおいてのみ抗CAII抗体価が対照慢性膵炎に比し有意に高いことよりCarbonic Anhydrase IIを用いてより特異性の高い診断応用が可能になる可能性を有しており、症例の検討を積み重ねることと、さらに細胞性免疫を介しての免疫学的検索がとりあえず今後必要な課題である。
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