アルブミン(Albumin)とアルファーフェトプロテイン(AFP)遺伝子はヒト第4染色体上にtandemに存在し、両者の発現は鏡面的な関係を有している。生後Albuminの発現が高いレベルで維持されるのに対し、AFPの発現は著しく抑制される。また、肝細胞癌ではAFP遺伝子の再発現がみられ、Albumin、AFP遺伝子発現はそれぞれ肝細胞の分化、脱分化に関連していると考えられている。 本研究では、膠質浸透圧、Hepatocyte growth factor(HGF)およびButyrateについて、両遺伝子発現に及ぼす影響を検討した。膠質浸透圧の上昇はAlbuminおよびAFPのプロモーター領域の活性を低下させることにより、両遺伝子発現を著しく抑制した。HGFも同様にAFPのプロモーター活性を抑制した。 Butyrateは門脈血中にも存在する腸内細菌由来の短鎖脂肪酸で、ヒトにおいては血球由来の細胞の分化を誘導するとされている。そこで、培養肝癌細胞を用いButyrateの細胞増殖、AlbuminおよびAFP遺伝子発現への影響を検討した。その結果、Butyrateは濃度依存性に肝癌細胞の増殖あるいはc-myc発現を抑制した。さらに、Albumin mRNAを増加させたのに対し、AFP mRNAを著しく低下させた。CAT plasmidをトランスフェクションし、Albumin、AFPの転写調節領域に及ぼすButyrateの影響を調べた。その結果AFPのエンハンサー領域あるいはサイレンサー領域に明らかな変化は認められず、AFPおよびAlbuminのプロモーター領域に活性の変化がみられ、Butyrateが肝癌細胞を分化させる可能性が示唆された。
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