1.ラット摘出肝灌流を用いた実験結果。 胆汁酸のshort pulse load後の胆汁流量、胆汁酸と脂質分泌のパターンは胆汁酸の種類によって異なり、親水性のタウロコール酸(TCA)の胆汁中分泌はtailingを持つ1峰性であったが、疎水性の強いタウロケノデオキシコール酸(TCDC)は分泌が遅延し台地状を呈した。また、単位胆汁酸当りのリン脂質の胆汁中への分泌量は胆汁酸の種類によって違い、その程度はTCDC、TC、タウロウルソデオキシコール酸(TUDC)、タウロデヒドロコール酸(TDHC)の順で胆汁酸のhydrophobicityと一致していた。同様に、hydrophobicityの強い胆汁酸ほどvesicle transport(VT)の指標であるhorseradish peroxidaseの胆汁分泌を増加させた。VTを抑制する塩酸パパベリンは低濃度のTCDC、または高濃度のTC、TUDCの投与時の胆汁酸排泄量を有意に抑制し、これは胆汁酸の肝における摂取の阻害でなく、肝細胞からの排泄抑制によるものであった。一方、低濃度のTCDC、または高濃度のTCの持続投与で惹起される胆汁うっ滞は、VTを促進させるグルカゴン、DBcAMPによって抑制された。 2.ラット初代培養肝細胞を用いた実験結果。培養液中のLDH活性を指標に肝細胞障害を検討した結果、TCDCによる細胞障害は肝細胞内TCDC量に相関することが明らかとなった。肝細胞からの胆汁酸排泄を抑制するパパベリンは、肝細胞内の胆汁酸量を増加させることにより、胆汁酸による肝細胞障害を増加し、逆に胆汁酸の排泄を促進するグルカゴンは肝細胞障害を有意に抑制した。 以上、胆汁酸の肝細胞内輸送にはVTが関与し、その程度は胆汁酸の疎水性とその投与量によって異なることが考えられた。肝内VTの促進と抑制によって肝内胆汁酸量の増減が起こり、その結果、胆汁酸惹起肝細胞障害、胆汁うっ滞の程度が変化するものと推定された。
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