C型肝炎ウイルス(HCV)ゲノムRNAが解明されて、ウイルスの性状とウイルス感染の病態が明らかになりつつある。しかしながら、HCVの複製機構はまったく不明であり、その解明はウイスル感染防止のために必須ではあるが、この目的の研究はほとんど行われていない。ウイルスの構造がHCVと近似しているフラビウイルスでは、非構造蛋白領域(NS)のとくにNS3がウイルス感染細胞内で複製されたウイルス蛋白をウイルス複製に必要な大きさに切断する蛋白分解酵素のコード領域であること、したがって、ウイルス複製機構においてはNS3蛋白が中心的役割を果たしていることが知られている。同様の機構がHCVでも作動しているのか、すなわち、HCVの複製機構に及ぼすウイルスゲノムNS3蛋白の意義を追及する目的で、NS3領域を含むcDNAをプラスミドに接続し、大腸菌発現ベクターを作製した。その結果、N'末端領域発現用ベクターからは32KDa蛋白、またC'末端領域発現用ベクターからは49KDa蛋白の2種の発現蛋白を作製することに成功した。そこで、これら2種の発現蛋白の抗原性の検討をヒト血清を使用したウエスタンブロットで施行した。その結果、発現蛋白はともにHCV感染患者血清とのみ反応し、非感染血清との反応は皆無であることが判明した。さらに、ウイルス感染患者血清との反応性は、患者の肝障害の状態によって相違し、肝病変が高度で進行しているときには、発現蛋白のうちでもとくにN'末端領域発現蛋白と顕著な反応を示すことが明らかとなった。今年度の研究によって、HCVのNS3領域から2種の発現蛋白を採取し、これら発現蛋白の肝疾患における意義を解明したので、ウイルス複製機構におけるこれら発現蛋白の生物学的意義が今後の重要な研究課題と考えている。
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