伊東細胞の自発運動や移動の有無と各種血管作動物質の伊東細胞の運動・収縮に及ぼす影響を明らかにするために、培養伊東細胞の動きをvideotape recorder(VTR)で経時的に録画し、画像解析装置を用いて定量的に分析した。伊東細胞はラット肝から分離・培養し、細胞同定のためにデスミン蛍光染色を行った。培養細胞の95%以上にデスミンフィラメントが染色され、この細胞は伊東細胞であることが確認された。VTRで伊東細胞を連続撮影すると、分裂期にない細胞ではほとんど自発運動は認められなかったが、細胞分裂時には伸展していた伊東細胞の突起部分が急速に収縮し、球状となって培養皿の表面を移動し、分裂後再び培養皿に接着・伸展する様子が観察された。このように、伊東細胞に増殖刺激が加わる肝の線維化時には、局所に移動して集積する可能性が考えられた。Endothelin-1を培養液に添加すると、30分後から伊東細胞の収縮が始まり、2時間にわたって次第に強く収縮し、最大収縮率30%となった。伊東細胞は収縮によって紡錐形となり、その後も収縮状態は持続した。4時間後に、endothelin-1を含まない培養液に交換すると、収縮していた伊東細胞はゆっくり伸展するのが観察された。Substance Pを培養液に添加した場合には、endothelin-1添加時よりやや速い伊東細胞の収縮がみられ、90分で最大収縮率28%となり、以後除々に減少した。4時間後、substance Pを含まない培養液に交換すると、ほとんどの細胞が細胞分裂を開始し、再び伸展するか否かについては分析できなかった。細胞内カルシウム濃度を上昇させるカルシウムイオノフォアを添加しても伊東細胞の強い収縮が認められた。このように、endothelin-1やsubstance Pなどの血管作動物質による培養伊東細胞の強い収縮は、伊東細胞が肝類洞の血流の制御に関与していることを示唆しており、この伊東細胞の収縮には細胞内カルシウムの上昇が重要な役割を果たしていると考えられた。
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