本年はマイクロダイアリシス法を用い低酸素負荷時の内因性アデノシンの脳組織内動態を経時的に調べ、低酸素換気抑制現象への関与について検討した。対象は麻酔ネコを用い、前頭葉及び延髄孤束核よりサンプリングし、同時に自発呼吸下で分時換気量および呼吸パターンを記録した。低酸素負荷は45Torr前後とした。室内気下でのアデノシン濃度の平均は、前頭葉で0.78μM、延髄孤束核周辺で0.58で、両部位間に有意差はなかった。室内気下での分時換気量の平均は0.52L/分で、低酸素負荷開始後まもなくピークとなったが、5〜6分頃より次第に低下し、その後はほぼ一定で、室内気に戻すことよりほぼ前値に復した。この低下部分は一回換気量の減少に由来し、低酸素換気抑制現象が再現された。アデノシン濃度の平均は、皮質において(0〜20分)で1.14μM、(20〜40分)で1.06、脳幹において(0〜20分)で0.99、(20〜40分)で0.97へといずれも有意に増加し、室内気に戻すと20〜40分でほぼ前値に復した。負荷の各相とも両部位間に有意な濃度差を認めなかった。低酸素負荷時のアデノシン濃度の変化と換気抑制現象との関係について、脳幹におけるアデノシン濃度の前値に対する20〜40分での増加率と、分時換気量のピーク値に対する負荷40分目での減少率との間に正相関があった(p<0.05)。この研究は低酸素負荷時の脳内因性アデノシン濃度を経時的に測定し、呼吸調節との関連について論じた初めての報告であり、PaO_245Torr前後の低酸素負荷でも大脳皮質及び脳幹でアデノシン濃度が有意に上昇し、しかもその変化は可逆的であり比較的短時間に回復することが示された。さらに分時換気量の変化が脳内アデノシン濃度の推移と平行し、同時に観察された換気抑制現象と脳幹アデノシン濃度の増加との間に相関が認められたことよりいわゆる低酸素換気抑制における脳幹アデノシンの関与の可能性が示された。
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