低酸素血症は末梢化学受容体に対する作用とは逆に中枢では呼吸抑制作用を持つ。その機序については中枢にアデノシン、GABAなどの神経抑制性物質が蓄積するためとの仮説が有力であるがその詳細は現在も明らかではない。昨年我々はマイクロダイアリシスを用い、中等度の低酸素負荷でも脳内アデノシン濃度が有意に増加するが、その変化は可逆的であり比較的短時間に回復すること、その際の換気量の変化が脳幹アデノシン濃度の推移と平行し、しかも換気抑制現象との間に一定の相関が認められることを示した。本年度は同様の方法により低酸素負荷中の脳内GABA濃度の変化を測定した。すなわち麻酔ネコの前頭葉及び延髄孤束核周辺にプローブを穿刺し、自発呼吸をモニターしながら呼気終末O_2分圧45Torrで40分間維持し、10分ごとに採取した灌流液のGABA濃度をHPLCを用いて測定した。負荷前のGABAの平均値は皮質で1.29±0.37(1SD)mM、脳幹で1.50±0.32であり、低酸素負荷により皮質で1.94±1.07(0-10分)、1.76±0.87(10-20分)、1.76±1.00(20-30分)、2.01±1.33(30-40分)、脳幹で1.73±0.42(0-10分)、1.93±0.45(10-20分)、2.09±0.55(20-30分)、2.02±0.52(30-40分)と有意に増加し、室内気に戻すと前値に戻った。ただし皮質および脳幹いずれのGABA濃度ともその増加の程度と分時換気量の減少の程度との間に一定の相関は認めなかった。従って中等度低酸素負荷によりネコ大脳皮質、脳幹で内因性GABA濃度が可逆的に有意に増加したが、換気抑制現象との間に一定の相関はなかった。以上の結果は低酸素換気抑制現象を媒介する物質としてはGABAよりもアデノシンの方が有力である可能性を示すのかもしれない。
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