癌克服を達成するためには、主病巣に対する治療と同時に癌転移の予防と治療が不可欠である。しかし、癌転移のメカニズムは未だ十分に解明されたとは言い難い。従来よりわれわれは癌細胞の生合成する各種細胞外マトリクス成分、特に基底膜の細胞接着タンパクであるラミニンに注目して、癌転移とのかかわり合いについて研究してきており、マウス肺癌細胞3LLでは高転移株で内因性ラミニンの発現レベルが低下しているなどの知見を得ている。 一方、細胞表面に在存するラミニンレセプターについては、インテグリンファミリーに属したレセプター以外、解析が未だ十分とは言えない。そこで、よりラミニンとの親和性の高い67kDaレセプターの発現をヒト肺癌を例に分子生物学的手法を用いて検討し、転移増殖に関わる癌の特性を解明しようとした。また、臨床材料を用いて67kDaレセプターの発現と予後との関係を検討した。乳癌や大腸癌では67kDaラミニンレセプターの発現とその悪性度が相関するとの報告があるからである。 まずはじめに、ヒト肺癌細胞およびヒト肺線維芽細胞より67kDaラミニンレセプターの前駆体タンパクである37kDaラミニンレセプターポリペプチドのcDNAをクローニングした。両者でそのヌクレオチド配列を比較したところ、3ヵ所で差異を認め、うち2ヵ所ではアミノ酸の相違を伴っていた。しかし、タンパクの2次構造の違いは無かった。 つぎに、各種ヒト肺癌細胞/組織における発現をmRNAレベルおよびタンパクレベルで比較検討した。その結果、肺癌においてもラミニンレセプターの発現は増殖速度の大きい悪性度の高い肺癌細胞で亢進していることが示された。
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