研究概要 |
急性高山病,高地肺水腫,高地脳浮腫といった一連の高山疾患における、呼吸調節障害の関与について本年は特に睡眠を中心に検討を行った。低地居住者が高地に登った際、夜間睡眠時に無呼吸を伴った周期性呼吸がよく認められる。このことが、高地での夜間低酸素症の重要な原因と考える研究者もいれば、一方で周期性呼吸は、低換素換気応答の高い者に強く出現し、高山病と関係ないという報告もあり、一定の結論は得られていない。また脳波測定など技術的なむずかしさからほとんど研究は行われていない。そこで今回我々は、高地肺水腫既往者3名,急性高山病既往者1名を含む健常男性9名を対象として,低圧実験室を用い3,700m相当の高地環境暴露実験を行い,高山病の発症,増悪における、睡眠時低酸素症,周期性呼吸の関与について検討を加えた。暴露後12時間目より睡眠時ポリグラフィーを行った結果、質問表による急性高山病スコアで高値を示した群で、より強い睡眠時低酸素症を示した。周期性呼吸は9名中8名で出現し,その出現の頻度が高い程、睡眠脳波上浅睡眠と覚醒の割合が高く、周期性呼吸と高地における睡眠の質の低下との関連性が示唆された。しかし、周期性呼吸の出現頻度と、睡眠好低酸素症の程度,急性高山病スコアの強さ,低地で測定した低酸素換気応答、高炭酸ガス応答等との間に有意な相関関係は認められなかった。高地肺水腫既往者のうち1例は最も低い夜間酸素飽和度低下を呈し、酸素投与を必要としたが、空気呼吸時に不規則であった呼吸パターンが、酸素投与により規則正しい呼吸パターンを回復した。このことから、夜間には、低酸素症がより強くなりやすく、周期性呼吸よりは、低酸素性換気抑制がその程度をさらに増強させ、高山病症状を悪化させる可能性が推定された。しかしこの種の検討では様々な因子による修飾を考慮しなければならず、今後さらに詳細な検討と実験の蓄積が必要である。
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