特発性間質性肺炎(Idiopathic Interstitial Pneumonia:IIP)や塵肺などの肺線維症は肺間質の線維化によるガス交換の障害を特徴とし、呼吸不全によって死にいたることもある疾患である。本研究では気管支肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage fluid:BALF)細胞を対象とし、線維芽細胞の分裂増殖を促すとされる複数のサイトカイン遺伝子発現をreverse transcription-polymerase chain reaction(RT-PCR)により測定し疾患との関連を検討した。IIP患者(n=9)、石綿肺(n=4)と珪肺症(n=8)の塵肺患者および肺癌患者(n=6)と健常者(n=12)の2群を対照とし気管支肺胞洗浄を行なった。そのBALF細胞からRNAを抽出し、RT-PCRによりサイトカインmRNA発現を測定し、内部対照のbActinに対する相対的な発現量を比較した。BALF細胞中のTGFβ mRNA発現はIIPと塵肺症例で健常と肺癌の対照に比べ有意に高かった。BALF細胞中のIL-1βとTNFαmRNA発現およびBALF中IL-1β蛋白濃度はIIPと塵肺群で低下していた。IL-8とIL-6mRNA発現は疾患群と健常対照で有意の差はなかった。BALF細胞中のプロスタグランディンE_2(PGE_2)濃度はIIPと塵肺患者では健常対照者に比べ有意に高かった。石綿肺、珪肺症患者に共通のサイトカイン発現異常の存在が観察されたことから、TGFβの発現増加とIL-1β、TNFαの発現低下は胞隔炎とそれに続く肺線維化に密接に関与する現象と考えられ、IL-1βの発現低下は一部PGE_2の産生増加によっていることが示唆された。TGFβの肺線維化への関与をより直接に証明するため、TGFβとPDGF-B遺伝子を組み込んだ発現ベクターをHVJ-liposomeを用いて実験動物の肺に導入し、肺線維症の組織学的な変化が再現されるかいなかを検討中である。
|