目的 肺の線維化におけるプロテアーゼ、特にセリンプロテアーゼの役割を解明するために、トロンビン、トリプシン、キモトリプシン、好中球エラスターゼ、膵エラスターゼ、らの既知の代表的なセリンプロテアーゼと我々が気道液に見いだした新しいトリプシン系酵素(new trypt‐ase)の、in vitroの系での線維芽細胞増殖促進活性(FGA)を比較検討した。方法 線維芽細胞としては、肺線維芽細胞IMR‐90を用いた。これをDulbecoのMEM中で培養し、G_0期にした後に各酵素液と^3H‐チミヂンを添加し、24時間後に細胞への放射能の取り込みを測定しFGAを判定した。各酵素活性測定用に開発された、アミノメチルクマリン(AMC)をペプタイドの末端に結合させた合成蛍光基質(Peptide Institute社製)を用い、各酵素の活性を測定し、FGA測定系に添加する酵素力価を統一した。1分間に1pMのAMCを生成する酵素量を1unitとした。成績 トロンビン(ヒト)を標準として各酵素のFGAを比較した。トロンビンのFGAは1x10^3unit/mlで明かになり、これ以上の濃度で濃度依存性に増加した。トリプシン(牛)、キモトリプシン(牛)ともに酵素力価に基づく比較でトロンビンとほぼ同様のFGAを示した。一方、好中球エラスターゼ(ヒト)はFGAを示さず、逆に細胞障害作用を示した。トロンビンの特異的阻害物質であるMD‐805とhirudinはともに本酵素の酵素(合成基質分解)活性阻害作用と並行してそのFGAを阻害した。FGAを示したトロンビン、トリプシン、キモトリプシンの活性基近傍のアミ酸配列は共通していたが、好中球エラスターゼのそれは前三者とは異なっている。以上の成績から、セリンプロテアーゼのFGAはその酵素作用を介して発揮されると考えられる。気道new tryptaseもFGAも示した。今後は、肺の線維化に実際に関与するプロテアーゼを推定するために、実験的肺線維症とヒト肺線維症の気管支肺胞洗浄液中のプロテアーゼ活性を分析する。
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