過去の研究から人およびマウスの肺胞マクロファージはin vitroでは自発的に分裂することが示されていたが、モルモットの肺胞マクロファージも同様に分裂可能であることを細胞数およびチミジン取り込みによって確認した。この肺胞マクロファージ培養系にATPを添加すると細胞数、チミジン取り込みの両方とも著明に抑制された。この抑制はATPの濃度依存性であったことより、モルモット肺胞マクロファージ表面のプリン受容体を介する作用であることが推測された。非水解性ATP誘導体であるATPγSでも同様に抑制されたこと、またATP、ADP、AMP、アデノシンを添加したところ、抑制の強さはATP>ADP>AMP=アデノシンの順であることよりP2タイプのプリン受容体であることが判った。種々のATP誘導体による検討によりこのプリン受容体はP2Zタイプに類似するが今後の検討が必要である。喫煙や肺線維症等の病的な肺胞環境においては肺胞洗浄で得られた肺胞マクロファージの絶対数が増加していることが知られているが、健康な肺胞の状態では肺胞マクロファージの数はコントロールされているはずである。そのコントロールの一機構がプリン受容体であるか否かを検討したところ、正常モルモットの肺胞洗浄液中に存在するマクロファージ分裂抑制物質は容易に透析される低分子領域に存在することが判った。実際に正常モルモットの肺胞洗浄液中のATP濃度を測定したところ十分に作用可能な濃度であった。以上の検討により気道側に存在する種々の細胞から分泌されるATPは肺胞マクロファージの分裂を制御していることが示された。肺の異常な状態では気道側の細胞が傷害されATP分泌が低下することにより肺胞マクロファージの数の増加が認められるのではないかと推測された。
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