DNA修復異常による神経障害発現の機序を知るため、神経皮膚症候群の一つである結節性硬化症(TS)を対象とした。MNNGによるplasminogen activator-like protease(PA)活性誘発を異常に促進する因子をTS患者血清中より精製、分離した。さらにTS患者由来繊維牙細胞を継代培養し、その上清中に血清由来因子と同様の因子が放出されていることが確認された。即ちPA誘発促進活性を有し、インターフェロンβとエピトープを同じくするが、ウイルス増殖抑制や癌細胞増殖抑制活性はないことを発見した。一方この培養液中に産生されてくる因子は、正常ヒト由来繊維牙細胞培養液中には全く放出されておらず、TS由来細胞特有因子であることが示された。一方TSでは遺伝子変異によると考えられている癌が高頻度で発生することから、上記のTS因子は突然変異誘発を促進するのではないかと予測した。実際に誘発促進活性は、分離抽出の初期段階から約100万倍高純度化した製品でも見いだされ、高純度化と共に蛋白量あたりの比活性は増大した。このTS因子の誘発促進は、紫外線や4-nitroquinolineいずれの変異誘発でも見いだされ、種しゅの培養ヒト細胞でも確認された。この変異誘発促進活性は、上記PA誘発促進活性同様抗インターフェロンβ抗体により阻害された。従ってTS患者体液中には、このTS因子が遊離しており、変異原因子による患者体細胞での変異誘発が常時促進されうることが示唆された。なおTS因子と神経発生異常との関連は、限られた予算枠では不可能であったが、今後TS因子の大量精製が可能となった段階で究明することとした。
|