研究概要 |
不随意運動症モデルの症状発現とその症状修飾時の分子生物学的ならびに薬理化学的研究を行い,以下の結果を得た. (1)神経毒iminodipropionitrile(IDPN)誘発ジスキネジアモデルラットにおいては,ドーパミン代謝回転は著しく亢進し,ドーパミンD1-レセプター(R)結合能,D2-R結合能,D1-R mRNA,D2-R mRNAが減少しており,レセプターの減少は遺伝子発現のレベルで生じていた.ドーパミンの放出を抑制する神経ペプチドceruletideを連続投与すると,長時間にわたってジスキネジア運動は抑制され,この際,ドーパミン代謝回転,D1-R,D2-R結合,D1-R mRNAおよびD2-R mRNAの全てが正常化した.さらに,免疫抑制薬cyclosporin A(CsA)を用いた実験から免疫系がジスキネジア発症を抑制していることが判明した. (2)IDPN投与ジスキネジアモデル動物の脳内ではcAMPに依存する転写制御(CRE結合活性)に異常が見られた.さらに,CsAは転写因子CRE結合の活性化を介してジスキネジアを増悪させることが判明した. (3)IDPN処置後の慢性期に脳内の5種類の神経ペプチドの濃度を測定した.その結果,ジスキネジア病態に橋・延髄と大脳皮質の神経ペプチドが重要な役割を果たしていることが判明した. (4)levodopaによるジスキネジア誘発に関連して,levodopa投与による線条体c-fos mRNAの発現がムスカリン性機構の制御下にあるという新知見を得た. (5)不随意運動症のモデルとして,6-hydroxydopamine(6-OHDA)を用いる系についても検討した.6-OHDAは培養神経細胞では転写因子AP-1のDNA結合活性(TRE結合活性)を減少させ,培養グリア細胞では逆に増化させた.また,6-OHDAのマウス脳室内投与は1週間後でもTRE結合活性の上昇が見られ,これは免疫抑制薬FK506投与によって正常化した. 以上から,不随意運動症の病態とその症状の修飾には,免疫系を介した遺伝子上流域の転写制御因子の変化と,さらには転写制御因子の変化による遺伝子発現の変化が重要な役割を果たしていることを明らかにした.
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