脳虚血中の脳内温度の上昇や下降により遅発性神経細胞壊死の生じ方も鋭敏に増減することから神経細胞壊死の原因究明の為には脳内温度と密接に関連する因子の追求が必要となった。本研究での実験的脳虚血モデルの作成には心停止による完全脳虚血モデルを用いた。また脳内温度に関連する因子の1つとしての脳皮質pHの測定にはNMRプローブを直接脳表に装着する方法を開発した。これは虚血導入一週間前に頭頂骨を広範囲に除去し、プラスチック代用頭蓋骨を装着したのち術創を閉じ、術創の完全回復ののちに脳虚血を導入する方法である。虚血導入時には代用頭蓋骨を外しNMRプローブを直接脳表にあて、神経細胞内pHを頭頂部皮質領域において測定した。その結果、ラット脳皮質pHは虚血直後より秒単位で低下をはじめた。高体温群での虚血後の脳皮質pHは低体温群に比べ、虚血75秒後から有意の低下を示した。これは神経細胞膜動態が温度により左右されることを示している。さらに脳皮質の乳酸蓄積をMicro Assay法により測定した結果、乳酸の蓄積は高体温群と低体温群の両群において有意差は認められなかったが、ピルビン酸脱水素酵素(PDH)活性は両群間で有意差を認めた。これらの事から脳神経細胞内では、乳酸濃度の外に脳内温度そのものが虚血後の神経細胞内pHに直接影響を与える事が明らかとなった。現在はマイクロトームを用いて脳薄切切片を作成し、虚血前後でのc-fos及びheat shock proteinの誘導のされ方に関して研究を継続中である。
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