デュシャンヌ型筋ジストロフィーで欠損しているX染色体由来の筋細胞膜蛋白質ジストロフィンと、第6染色体由来の類似蛋白質DRPの生理作用について検討した。まずDRPがジストロフィンの胎児性アイソフォームであるかどうか検討するため、ジストロフィン欠損が明らかなmdxマウスでのDRPの発現様式と、その発達による変化を観察した。その結果、DRPはmdxマウス胎児骨格細胞膜上に強く発現しており、出生後減少することが明らかとなった。しかし、出生後ほとんど発現が見られない正常マウスとは対照的に、mdxマウスでは出生後もDRPの発現は認められた。一方ジストロフィンは、胎児期での発現は認められないが、出生後骨格筋の膜に強く認められるようになった。以上の結果は、DRPがジストロフィン発現と逆相関になっていることを示し、mdxマウスでは後者の欠損を前者が補っていることを示唆していた。 次に我々は、精神遅滞とジストロフィン類の関係を調べるため、神経系でのDRPの発現を検討した。細胞差を証明するため、筋肉細胞の初代培養系およびPC12などの神経細胞株を用いてウエスタンブロット法とPCR法でDRPとジストロフィンの発現量を検討した。その結果、両蛋白質の神経細胞での発現が確認された。また治療の目的のため、ジストロフィンの大量発現を目指して細胞系でDRPmRNAの量を変化させる薬剤をスクリーニングしたところ、デキサメサゾンやcAMPでジストロフィンの転写の増加が認められた。以上の結果は、ジストロフィンやDRPの遺伝子発現を制御することによって、筋ジストロフィーの症状を軽減する可能性を示唆するものであった。今後、実際のベッカー型患者からの培養骨格筋などで、発現増強が見られるかどうかを検討すべきものと考えられた。
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