研究概要 |
膜性腎炎はヒト難治性ネフローゼ症候群の主たる原因疾患である.膜性腎炎の実験モデルであるハイマン腎炎の病因抗原となっているラット腎尿細管刷子縁分画を用いてモノクローナル抗体を作成した.その中から病因抗原に特異的に反応するモノクローナル抗体を得た.今回はこの抗体を用いて研究をすすめ,以下の成績をえた. 先ず,この抗体を用いて,アフィニティ・カラム法によりプロナーゼ消化で可溶化した尿細管刷子縁分画より,純度の高い腎炎病因抗原を分離した.分子量12万前後の糖蛋白である. この抗原は同種のラットに注射すると,典型的な膜性腎炎が発症し,腎炎ラットの糸球体基底膜に,この病因抗原を構成成分とする免疫複合体の沈着が確認された.また,ラットの血中にも同じ免疫複合体が存在すること,ならびに正常腎においては,この病因抗原は糸球体に存在せず,近位尿細管刷子縁にのみ存在していることも証明しえた.これらの成績から,膜性腎炎の特徴的所見である糸球体基底膜上皮下への免疫複合体の沈着機序をめぐる論爭の中で,血中循環免疫複合体が基底膜に沈着して起こることを明確に証明して,膜性腎炎の発症機序の解明に寄与しえたと考えられる. 以上の成果は平成4年12月,横浜市で開催された第35回日本腎臓学会総会のワークショップで教室の塚田が発表し,平成5年6月,イスラエルで開催される第12回国際腎臓学会でも発表の予定である.さらに国際腎臓学会機関誌であるKidney International誌に原著論文として投稿中である. 現在,分離した病因抗原の一部アミノ酸配列を検索中で,それよりプローブを作成し腎組織におけるmRNAの発現と,cDNAのクローニングを行う予定である.
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