研究課題
一般研究(C)
本研究の目的は、心筋細胞の虚血よりの回復過程において、いわゆるImmediate-early genes(IEG)、プロテイン・キナーゼ系、細胞内Ca^<2+>がいかなる役割を果たしているかについて検討を加えることであった。10日ニワトリ胚由来の培養心室筋細胞を無血清培地にて培養した後に、1 mM NaCN +20 mM 2-deoxy-d-glucoseを含む培養液を投与して代謝阻害を加え、in vitroの虚血モデルとし、代謝阻害中および回復期におけるIEGのひとつであるc-jun発現、Ca^<2+>indicator dyeであるindo-1を用いて測定した細胞内Ca^<2+>濃度、mitogen-activated protein(MAP)キナーゼ活性の変化について検討を加えた。RNAブロット解析の結果では、c-jun mRNAの発現レベルは30-120分の代謝阻害中には有意に変化しなかったが、30分間の代謝阻害からの回復期においては、回復期30分にて有意に上昇を開始し、60分にて最大値(代謝阻害前コントロールの4.7±0.03倍、p<0.01、n=3)となった。この代謝阻害よりの回復期におけるc-junの発現レベルの上昇は、プロテイン・キナーゼCの阻害薬であるH-7(100μM)の前投与により著明(約95%)抑制された。心筋細胞内Ca^<2+>濃度は代謝阻害中に徐々に増加し、正常収縮時のピーク・レベルを越える程度まで上昇した(代謝阻害開始5分後:314±28 nM、30分後1658±289 nM、n=3)が、代謝阻害からの回復期には速やかに正常化した。EGTA(2 mM)の前投与により細胞外Ca^<2+>濃度を低下させると、代謝阻害による細胞内Ca^<2+>濃度の上昇はほぼ完全に抑制され、細胞内Ca^<2+>濃度は低いレベルに保たれた(代謝阻害開始5分後:168±25 nM、30分後184±26 nM、n=3)が、回復期におけるc-junの発現レベルの上昇はEGTA非投与群に比して有意に(約42%)抑制された。MAPキナーゼ活性も代謝阻害中には不変で、代謝阻害からの回復早期(ピークは10分後でコントロールの4.1±0.8倍、p<0.05、n=4)に有意に上昇した。