本年度は、NO(EDRF)の前駆体と考えられるL-arginineの血圧や脈管作動性のホルモンなどに与える影響について、正常ヒトとウイスターラットの両者で検討した。ヒトでは臨床的に使われているいわゆるアルギニン試験を行い、血圧や脈拍、NO(EDRF)の間接的な証明としてcGMPとL-アルギニンおよびL-シトルリン、その他レニン(活性型・不活性型)、cAMP、hANP、インスリン、グルカゴンなどを測定した。ラットでは、大腿静脈に挿入したカニュウーレから無麻酔下でL-アルギニンを静注して、血圧・脈拍を測定した。次のような結果を得た。 1.ヒトではL-アルギニンで明かな降圧反応が観察された。この降圧には、同時にcGMPやL-シトルリンの血中レベルの上昇が観察され、間接的なデータではあるが、NO(EDRF)の上昇を介する機序が推測された。また、血圧低下と共にhANPが上昇した。hANPの上昇は原因は不明である。L-アルギニンそのものの作用である可能性がある。 2.一方、ラットでは、L-アルギニンは、降圧に次いで昇圧に転ずる二相性の血管反応を呈した。1)この降圧反応は、中枢神経系の抑制により増強されることはあっても、末梢交感神経系や副交感神経系では調節を受けず、PGやcGMPとも無関係な機序で惹起されると考えられた。2)これに対して、降圧に続発した昇圧反応は、間接的かあるいは部分的に、β-交感神経系やPG系の阻害薬で抑制され、間接的と思われるが、アトロビンとcGMPとも関連する未知の機序で抑制されたと推定された。 3.以上のように、ヒトとラットでは、L-アルギニンによる血管反応は異なることが明らかとなった。これは、種差による可能性もあったが、特にラットの降圧反応は、非特異的である可能性が強く示唆された。
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