【目的】短時間虚血-再潅流刺激(preconditioning)は、ひき続く長時間の虚血刺激による心筋障害を軽減する。その機序に虚血心筋から放出される代謝産物であるアデノシンの役割が注目されている。その受容体(A1受容体)は抑制性G蛋白(Gi)を介してアデニレートシクラーゼ活性(ACA)を抑制する。本研究ではpreconditioning時に放出されたアデノシンによるACAの抑制が長時間虚血時のカルシウム過負荷を抑制、心筋障害を軽減するとの仮説の正否をあきらかにすることである。【方法】麻酔下に家兎を開胸、心臓を露出し冠動脈を結索、2回の5分間虚血-5分間再潅流の有(preconditioning群)無(対照群)による10分、20分、60分間の心筋虚血モデルを作成した。虚血部と非虚血部で心筋膜分画を調製、β受容体数、A1受容体数、イソプロテレノール、NaF、フォルスコリン刺激によるACA、cyc(-)S49リンフォーマ細胞との再構成法による刺激性G蛋白(Gs)活性、百日咳毒素のADP-リボシル化反応によるGi量、心筋梗塞量を測定した。さらに、百日咳毒素で48時間処理した家兎を作製、10分虚血モデルで同様の検討をおこなった。【結果】対照群では10分虚血により虚血部心筋膜β受容体数、A1受容体数、ACA、Gs活性、Gi量が低下、20分、60分間虚血でその程度が進行性に増加した。preconditioning群の10分、20分間の虚血でこれらの変化は、対照群に比し、有意に軽微であったが、60分間虚血では両群の差は無かった。心筋梗塞量は20分間虚血でpreconditioningの保護効果が認められた。百日咳毒素処理家兎では、非虚血部心筋膜β受容体数、ACA、Gs活性が対照群、preconditioning群共むしろ低下し、虚血部では対照群、preconditioning群の間に心筋膜β受容体数、ACA、Gs活性の差を認めなかった。以上より、preconditioningの心筋保護作用において、アデノシンA1受容体-抑制性G蛋白系の主要な効果がACA活性の抑制によるものでないことがわかった。
|