研究概要 |
心筋細胞内グルタチオン(GSH)代謝は酸素ラジカル障害に対して酸素一還元反応を介して細胞機能の保持に重要な役割を果たしているが、GSHは細胞膜を透過し難いとされている。グルタチオン前駆物質であるγ-gluta mylcysteine ethylester(TEI2306)は細胞膜透過性に優れており、細胞内抗過酸化作用を示す。さらに再潅流時に虚血心筋に浸潤する白血球の走化能の亢進と細胞内GSH量の低下との関連も指摘されている。今回、TEI2306による心筋障害防止効果を検討した。犬冠動脈枝を90分間閉塞-5時間再潅流し、心筋梗塞モデルを作成した。TEI2306(3,10mg/kg,各々n=10)は再潅流直前に静脈内投与した。心筋二重染色法(エバンスブルー、TTC)により梗塞量を算出し、局所心筋血流量は、カラーマイクロスフェア法により測定した。虚血部並びに非虚血部の心筋GSH含量、ミエロペルオキシダーゼ活性(白血球浸潤度)も同時に計測した。その結果、(1)梗塞量は、対照群に比しTEI群では用量依存性に縮小した。虚血時の局所心筋血流量、血行動態の経時的変化には各群間で差はなかった。(2)虚血心筋では非虚血心筋に比しGSH含量が著明に低下したがTEI群の虚血心筋ではGSH含量の低下が抑制された。(3)虚血心筋のミエロペルオキシダーゼ活性はTEI群で用量依存性に抑制された。以上、グルタチオン前駆物質TEI2306により心筋虚血-再潅流障害は著明に抑制された。TEIは、虚血心筋での細胞内GSH含量を保持し細胞保護作用を示すと共に、虚血心筋への白血球浸潤を抑制することにより心筋障害防止効果を示すことが示唆された。
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