遺伝性肥満Zuckerラットは高脂血症を伴う頻度が高いことが知られている。著者らは高脂血症の病因に関与する肝臓細胞質タンパク質を検索する目的で以下の実験を行った。これまでの研究結果から、肥満ラットの肝臓細胞質画分中ではやせラットより著増している未知のタンパク質(分子量120kDa)を見出した。このタンパク質はミトコンドリア画分中では検出できなかった。また、肥満ラットを3日間の絶食により120kDaタンパク質はやせラットのレベルまで著減した。さらに、やせラットを2日間絶食後、一夜高炭水化物食を再摂食することにより120kDaタンパク質は著増したが、高脂肪食では変化が見られなかった。 Zuckerラットで観察された絶食や絶食一再摂食での肝臓細胞質中の120kDaタンパク質の挙動は系統の異なるウィスターラットでも同様の結果が得られた。これらの結果から120kDaタンパク質は肝臓の脂質合成に連動して増減するタンパク質であることが示唆された。次に120kDaタンパク質の特性を調べる目的で肝臓細胞質画分を硫安塩析、DEAE‐Sephacel及びポリアクリルアミドゲルカラムを用いて120kDaタンパク質を精製した結果、SDS‐ポリアクリルアミド電気泳動により単一なバンドにまで純化できた。この精製した120kDaタンパク質を家兎に注射して作成した抗体は、肥満ラットと強く反応し、やせラットと弱い反応を示した。本研究の結果から120kDaタンパク質と高脂血症との直接の関係は明かでなかったが、脂質合成の亢進時に増加するタンパク質であることやこのタンパク質と血清トリグリセリドとは同じ挙動を示さないことから高脂血症には関節的に影響している可能性が大である。今後その生理的役割の解明には120kDaタンパク質構造解析や試験管内での多くの実験が残されている。
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