研究概要 |
昭和63年度の久山町検診において,75g経口糖負荷試験を受けた40-79歳の男女2480名(当該人口の約80%)の断面調査の成績をもとに,血清インスリン値と血圧値および高血圧の関連を検討した。インスリン値は,年齢,肥満度,血清脂質,空腹時血糖,飲酒習慣,喫煙習慣とは独立して,男女において血圧値および高血圧頻度と有意に関連していた。この関係は,対象者を非肥満群と肥満群に分けても,降圧薬服用者を除外しても変わらなかった。以上より,日本人においても高インスリン血症,あるいはそれに反映されたインスリン抵抗性が,高血圧と密接に関連していることが示唆された。(第14回国際高血圧学会,第15回日本高血圧学会総会にて発表)同様の検討を60-79歳の高齢者993名について検討した。その結果,血清インスリン値は,女性の血圧値および高血圧の有意な関連因子であった。(日本老年医学会雑誌投稿中) 昭和36年の久山町検診受診者1621名と,昭和48-49年の検診受診者2053名を各々13年間追跡し,心血管病発症に対する血圧値の影響を他の危険因子を考慮して分析し,その時代的変化を検討した。その結果,最近の集団では降圧療法の普及により,高血圧の脳梗塞および脳出血発症に及ぼす影響が減少した。この脳卒中の減少は,脳卒中に対する高血圧の直接的な影響のみならず,高血圧と飲酒習慣や耐糖能異常など他の危険因子との相乗効果の減少によっていた。一方,最近の久山町の集団では,降圧療法の普及にもかかわらず虚血性心疾患発症の減少は認めなかった。これは高コレステロール血症など代謝性疾患の頻度が増加し,降圧療法や喫煙頻度の減少による予防効果を相殺したことに起因していた。将来の虚血性心疾患の増加を未然に防ぐには,高血圧管理を徹底すると同時に,代謝性疾患を初めとする他の危険因子の管理に十分配慮する必要があると考えられる。(第14回国際高血圧学会にて発表)
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