高血圧自然発症ラット(SHR)や本態性高血症において、交感神経活性の増加が指摘されている。特にSHRでは血管床の交感神経線維の密度が高いことや、ノルエピネフリン(NE)遊出が多いことが報告されている。SHRにおける交感神経活性亢進におけるNGFの役割を明かにするため、血管平滑筋細胞(VSMCs)からのNGF分泌を検討し、SHRおよび対照のWistar-Kyoto rat(WKY)の各種の組織内のNGF含量を測定した。また交感神経終末からのNE遊出に対するNGFの影響も検討した。NGFはマウス顎下腺よりBocchiniの方法で精製した。VSMCsはWKYの大動脈よりexplant法作成した。NGF活性はbioassayで、NGF含量はenzyme immunoassayで測定した。電気刺激によるNE遊出に及ぼすNGFの影響は腸間膜灌流標本で検討した。その結果、1)VSMCsの条件培養液は交感神経、知覚神経に対し、神経線維伸長活性を示し、この活性は抗NGF血清で阻害された。2)3週齢のSHRではWKYに比べ、脾臓、坐骨神経、腸間膜動脈のNGF含量が多かった。しかしこの差は12週齢では認められなかった。3)腸間膜動脈中膜でNGFmRNAの発現が高かった。4)腸間膜動脈および大動脈のNGF分泌量はSHRとWKYで差がなかった。5)NGFは電気刺激による交感神経終末からのNE遊出を用量依存性に抑制した。この反応は神経終末からの取り込みの抑制剤desipramine(5×10^<-8>M)でも同様に認められた。6)NGFの神経伝達抑制作用は4週齢のSHRで減弱していた。しかし12週齢ではSHR、WKY間で差を認めなかった。これらの異常は交感神経系の亢進を介し高血圧の成因に関与していると考えられる。
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