研究概要 |
無機リン酸(Pi)濃度を0,1.2,5mMと変化させた溶液でラット心を潅流し,補助金で購入したカテ先圧トランスデューサを用いて測定した心機能と心筋代謝について検討した.【結果】潅流液Piが0,1.2→5mMと上昇すると,心拍出量は26〜28→19ml/min/g湿重量,冠血流量は12〜14→9ml/min/gと有意に減少し,心仕事量,酸素消費量の有意な減少と40〜60%の冠血管抵抗の上昇を認めた.心筋Ca^<2+>含有量は0.75〜0.83→0.99μmol/gと有意に上昇,Mg^<2+>含有量は6.2〜6.3→5.9μmol/gと有意な減少を示し,Ca^<2+>/Mg^<2+>比は0.12〜0.13→0.16と上昇した.解糖系.ペントース回路の代謝産物では,グルコース6リン酸は0.084〜0.081→0.093μmol/gとなり,6ホスホグルコン酸は4.3〜4.1→5.2nmol/g,リブロース5リン酸は9.9〜9.8→14.2nmol/g,リボース5リン酸は4.7〜4.8→6.6nmol/gと有意に増加しペントース回路の活性化が示された.^<31>P NMR法を用いた心筋細胞内遊離Mg濃度の測定では,潅流液Piを5.0mMにするとATPβ位リンは高磁場側にシフトし,再びPiを1.2mMに戻すとβ位リンの位置はcontrolに戻った.δ_<αβ>の変化から算出した細胞内遊離Mg^<2+>濃度は,1.2mM Piでは0.525±0.048mM,5.0mM Piでは0.407±0.025mMと有意に低値をとり,再び1.2mM Piに戻すと0.601±0.053mMと上昇しcontrolのMg^<2+>濃度に戻った.リン酸のアナログであるバナジウムを用いて,リン酸化中間体を形成する酵素活性を変化させたときの心筋代謝の検討では,4mMバナデイト(Na_3VO_4)水で飼育したラットの摘出心で,Langendorff潅流時の酸素消費量は2.04±0.34μmol/min/gで対照群の2.47±0.60μmol/min/gと比較して有意に低値をとった.外部仕事量に対する心仕事効率は,対照群の16.7±7.8%に対し21.8±6.8%と有意に高値をとった.【総括】細胞外液Pi濃度を高くすると細胞内遊離Mg^<2+>濃度の減少が^<31>P NMR法によって直接観測され,心筋細胞膜におけるMgイオン輸送系の存在が示唆された.
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