はじめに:エンドセリンは、血管平滑筋収縮活性をもち、血管平滑筋増殖作用および心筋細胞肥大作用を有するペプチドで、作用の異なる種類のエンドセリンファミリーが存在することやその受容体にエンドセリンA(ET_A)受容体およびエンドセリンB(ET_B)受容体の2種類が報告されている。本研究の目的は、ET_AおよびET_B受容体mRNAのヒト動脈および心室筋細胞における発現および分布をIn Situ Hybri-dizationにより明らかにすることである。 対象および方法:ヒトの狭心症のバイパス術中に得られた6例の内胸動脈および15例の心筋症患者の心室心内膜下心筋生検標本を対象にザンボニー固定後、4μmの凍結切片を作製した。ET_AおよびET_B受容体mRNAに相補的なオリゴヌクレオチドプローブ(DNA合成機で作成)を用いて、In Situ Hybridizationを行った。 結果:コントロール血管では中膜平滑筋のみにET_A受容体mRNAの発現が認められた。高血圧による内膜肥厚がある内胸動脈では、中膜平滑筋細胞に加えて内皮細胞直下の細胞にもET_A受容体のmRNAの発現が認められた。この細胞は抗アクチン抗体陽性で平滑筋細胞と思われた。肥大型心筋症(HCM)の右室、拡張型心筋症(DCM)の右室および左室心内膜下の心筋細胞でET_A受容体体mRNAの陽性シグナルが、HCMの左室、DCMの右室心内膜下の心筋細胞でET_B受容体mRNAの陽性シグナルがコントロールの正常心よりも亢進していた。 考察:高血圧患者で、内膜平滑筋細胞に発現したET_A受容体は、内膜平滑筋細胞の増殖すなわち動脈硬化の進展に関与していると示唆された。また、HCMおよびDCMの心室筋細胞で発現したエンドセリン受容体は、心室心筋細胞肥大に関与していると示唆された。
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