研究概要 |
1、始めに:プロピオン酸血症は、プロピオニルCoAカルボキシラーゼ(PCC)欠損により引き起こされる有機酸代謝異常症である。PCCはα、β、2つの異なるサブユニットで構成されているが、今回我々は5例の日本人β鎖欠損患者遺伝子を分析し、初めて変異を明らかにしたので報告する。2、材料及び方法:β鎖欠損が確認された患者(83,187,212,276,338)を用いて実験を行った。患者細胞よりmRNAを抽出し、オリゴdTプライマーを用い逆転写酵素によりcDNAを作成した。塩基配列はcDNAもしくはゲノムDNAをPCR法にて増幅し、サブクローニング後ジオキシターミネーション法にて決定した。3、結果:1)患者mRNAの解析:約1.6kbの全翻訳領域をPCR法にて増幅し塩基配列を決定した。その内訳はミスセンス変異2(C493T、C1283T)、ナンセンス変異1(C1495T)、欠失2(57bp deletion:nt.373-429、101bp deletion:nt.1199-1299)であった。2)患者ゲノムDNAの解析:338と187ではその欠失したエクソンの上流及び下流のイントロン領域をPCR法にて増幅し塩基配列を決定した。338では欠損したエクソンの下流のイントロンの_+3から_+10までの8塩基が、187では同じく_+3から_+6までの4塩基がそれぞれ欠失していることが明らかになった。いずれもスプライス部位のコンセンサス配列を破壊し、エクソンスキッピングの原因となると考えられた。4、考察:変異には多様性が見られたが、C1283Tは日本人に多い特徴的な変異と考えられた。C1283T変異とすでに報告したC1228T変異は同一エクソン内に存在し、またこのエクソン(nt.1199-1299)そのものが欠失するなど、このエクソン周辺は変異のホットスポットであると考えられた。現在正常β鎖cDNAを用いた発現実験を検討中である。この実験系が確立すれば上述のミスセンス変異の活性へ及ぼす影響を検討できるのみならず、将来的にはβ鎖欠損症に対する遺伝子治療への第一歩になると期待される。
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