本研究の最終年度として以下の結果を得た。 (1)単純ヘルベス脳炎の早期診断への有用性が明らかになり、信頼できる検査法として普及しつつある。当研究室での診断率は95%(22例中21例)であった。今後は、本法の精度管理が重要と思われた。 (2)単純ヘルペス脳炎と新生児ヘルペスの脳炎型では病態が大きく異なることが定量的PCR法や、髄液中HSVゲノムの存在様式の検討から明らかになった。すなわち、年長児のヘルペス脳炎の髄液中のウイルスDNA量は、新生児のそれに比べて10^2近く少ないこと、またHSV DNAは年長児のヘルペス脳炎では、主にフラグメントとして新生児では主にウイルス粒子として存在することが明らかになった。これは年長児の本症でウイルス分離が困難なことと一致した結果であり、興味深い。 (3)サイトメガロウイルス(CMV)のDNA検出をPCR法で行なった。CMV DNAは、胎内感染が明らかで後にWest症候群を発症した児の髄液中から高頻度に検出され、コントロールの他疾患の児では認められなかった。この結果は、West症候群など、乳児期のてんかんの発症にCMVが何らかの役割を有すことを示唆しており興味深い。 (4)エンテロウイルス髄膜炎の中で、エコー9型による症例を集め、髄液中のウイルスRNAが、RT PCR法で検出可能かどうか検討した。約60%の症例でウイルスゲノムが検出された。しかし、同方法をさらにRNA量が少ないと予測される脳炎に応用するためには、さらに感度を高める必要がある。 以上のようにいくつかの興味深い結果を得ることができた。さらに今後も検討を続けていく予定である。
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