ニーマン・ピック病C型は肝脾腫、精神運動発達の退行を来し垂直眼球運動障害をひきおことす遺伝性疾患であるが、その原因は明らかではない。この疾患では、細胞外からコレステロールを取り込んだ後、細胞内でおこるべき反応が正常におこらないことが知られている。 この疾患で欠損する機能と遺伝子を明らかにする目的で今回の研究を開始した。ニーマン・ピック病C型と同じような形質を示すモデルマウスが日本で発見されており、このマウス胎児から永遠の寿命を持つ細胞株の単離をおこなった。このモデルマウス胎児から樹立した細胞は細胞内コレステロール蓄積、外因性コレステロールのエステル化障害、内因性コレステロールの合成亢進という点でニーマン・ピック病C型と同じ異常を示すことを明らかにした。ついで、この細胞株に人染色体を導入してこの異常な形質を正常化する人染色体の同定を行った。ネオマイシン耐性のマーカーをつけた人染色体1本を持つマウスA9細胞を微小核細胞として、モデルマウス細胞株と融合し、ネオマイシンにて人染色体を取り込んだ細胞を分離し、この細胞のコレステロール蓄積を調べた。この結果ひと18番染色体を導入した細胞のみでコレスロールの蓄積が消失し、外因性コレステロールのエステル化が正常し、このモデルマウスの欠陥を正常化するひと遺伝子が染色体18番にあることを明らかにした。さらに、正常人由来の線維芽細胞とニーマン・ピック病C型の患者細胞とで感受性が異なるいくつかの薬剤を見いだした。この中でビタミンD3は正常人の細胞は抵抗性を示し、ニーマン・ピック病患者細胞が高感受性を示すことを見いだした。同様にモデルマウス細胞株も高感受性を示し、この薬剤を用いることで、ひと遺伝子を取り込み正常化した細胞を選択できる条件を確立した。この結果、ニーマン・ピック病に欠損するひと遺伝子を単離するための準備が整った。
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